と、その夜の五ツ(午後八時)過ぎに、亀吉と松吉が顔をそろえて来た。
「丁度そこで逢いました」
「そりゃあ都合が好かった。そこで、早速だが、めいめいの受け持ちはどうだった」と、半七は訊《き》いた。
「じゃあ、わっしから口を切りましょう」と、亀吉は云い出した。
「大津屋の亭主は重兵衛といって、ことし四十一になるそうです。五年前に女房に死なれて、お絹という娘と二人っきりですが、どっかに内証の女があると見えて、この頃は家を明けることが度々ある。それから、親分。その娘のお絹というのは、お城坊主の次男とどうも可怪《おか》しいという噂で……。してみると、親分の鑑定通り、万次郎と大津屋とはぐる[#「ぐる」に傍点]だろうと思いますね。それから大津屋へ出入りの女絵かきは、孤芳《こほう》という号を付けている女で、年は二十三四、容貌《きりょう》もまんざらで無く、まだ独身《ひとりみ》で、新宿の閻魔《えんま》さまのそばに世帯《しょたい》を持っているそうです。そこで、まだはっきりとは判りませんが、この女は大津屋の亭主か万次郎か、どっちかの男に係り合いがあると、わっしは睨んでいるのですが……」
「そうかも知れねえ」と
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