、畑道のあいだを縫って大宮八幡の門前へ辿り着くまでに、二人は途中の百姓家で幾たびか道を訊いた。
「初めて来たせいか、ずいぶん遠いな」と、半七は立ちどまって云った。
「ちっとくたびれましたね。まあ、一服しましょう」
 二人は路ばたの石に腰をかけて、煙草入れを取り出した。空はいよいようららかに晴れて、そこらの麦畑で雲雀《ひばり》の声もきこえた。風の無い日で、煙草のけむりの真っ直ぐにあがるのを眺めながら、半七はしずかに云い出した。
「なあ、亀。おれは途中で考えながら来たのだが、ここの絵馬は無事だろうと思うぜ」
「そうでしょうか」
「おそらく無事だろうと思う。偽物をこしらえて掏り換えたというが、それは丸多の亭主が欺されているので、実は自分が偽物を掴まされているのだろう」
「成程ね」
「そうなりゃあ論はねえ。丸多の亭主は誰にかだまされて、偽物を高く買い込んだというだけのことだ。おれはどうもそうらしく思う。念のためによく調べてみよう」
 二人は松並木のあいだを縫って本社の前に出ると、境内は思ったよりも広かった。東にむかった社殿に幾種の絵馬が懸けつらねてあって、そのうちにかの白鷹の絵馬も見えたので、
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