女房に眼をつける。お節もなんだか足もとがあぶなくなって来たので、小僧の宇吉に手紙を持たせて山谷の親父のところへ知らせてやる。そこで、花鳥は小左衛門と相談して、いわゆる最後の手段ということになったんです。
惚れた女房ではあるが、この頃の久兵衛はお節を疑っている。そこで、お節をためすために、わざと自分の居間の手箱のなかに二百両の金を入れて置いた。それを取れば自分の仕業だということがすぐに露顕するから、お節も迂濶に手が出せない。結局久兵衛を殺して、行きがけの駄賃にその二百両をさらって行くことにしたが、年の若いお節の手で人殺しはむずかしい。もう一つには後日《ごにち》の詮議を逃がれるために、亭主を殺した上で自分も身投げをしたように見せかける。これは花鳥が考え出したのだそうです」
「そこで花鳥がお節の替玉になったんですね」
「花鳥はお節の手引きで庭木戸から忍び込んで、人の見ないところで二人の着物を取り換えたんです。お節は花鳥の着物を着て、雨のふる中を表へぬけ出る。花鳥はお節の着物に着かえて、ちらし髪に顔をかくして久兵衛の居間へ入り込む。相手を殺して、金を取って、本来ならば庭口から逃げ出すはずです
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