が、わざと大勢の眼に付くように、表の店口から飛び出して北新堀の川へ身を投げる……。花鳥は島にいるあいだに泳ぎを稽古したのだそうです。島を破るときにも海の上を半里ほども泳いで、それから漁船に乗せて貰ったのだと云いますから、新堀の川を泳ぐくらいは大丈夫だったんでしょう。
 乱心のために亭主を殺して自殺したということになれば、別に詮議の仕様もないわけです。それでもお節の死骸が見付からないうちは、詮議の手のゆるまない虞《おそ》れがあるので、山女衒《やまぜげん》の半介、これも花鳥の識っている奴ですから、その半介を語らって、例の品川の夜釣りの怪談をこしらえて、形見の片袖を鍋久に持ち込ませました。こうして置けば、お節はいよいよ死んだものと思うだろうという計略です。それでもやっぱり手ぬかりがあって、花鳥は自分の剃刀《かみそり》で久兵衛を殺したので、お節の剃刀は鏡台のひきだしに残っていた。それがどうもおかしいと、徳次もわたくしも睨んだのでした。
 新次郎を取り押えて、大体の見当は付いたんですが、替玉か真者《ほんもの》か、それが確かに判らない。たとい替玉にしても、それが何者だか判らないので、そのまま翌年ま
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