いうものか手癖が悪くって、肩揚げの取れない頃から万引きなどを働いていたんですが、見掛けがおとなしいから誰も気がつかない。おやじの小左衛門もそれを知っていながら叱ろうともしない。つまり親子揃って良くない奴らであったんです。その小左衛門があるとき途中で花鳥に出逢って、女は島破りの兇状持ちであることを承知の上で附き合っていたんですから、お互いに碌なことは考え出しません。花鳥もなかなかいい女でしたが、何分にも日陰《ひかげ》の身の上ですから、自分が表立って働くことは出来ないので、お節を玉に使ってひと仕事することに相談を決めたんです。
 花鳥は江戸へ帰って来てから、松島|町《ちょう》の糊売り婆の家に隠れていて、女のくせに小博奕を商売にしていたので、巾着切りの竹蔵という若い奴と懇意にしていたんです。普通の懇意だけじゃ無かったかも知れませんが、なにしろ竹蔵という奴は花鳥の云うことを肯《き》いて働く。そういうわけで、花鳥と竹蔵と小左衛門親子と、この四人が腹をあわせて浅草のお開帳に網を張っていたんです」
「それじゃあ、初めから鍋久を狙ったわけじゃあ無かったんですか」と、私は訊いた。
「誰でも構わない、いい
前へ 次へ
全57ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング