て来てから、どうで善い事をしていやあしめえと思っていたが、あいつも相当の仕事をしていたに相違ねえ」
「そうでしょうね」
 云いながら二人は眼をみあわせた。云い合わせたように、ある疑いが二人の胸に湧き出したのであった。

     七

「ずいぶん長くなりました。ここまでお話をすれば、もう大抵はおわかりでしょう」と、半七老人は云った。
「さあ……」と、わたしは考えながら云った。「そうすると、鍋久の主人を殺したのは、その花鳥という女ですか」
「そうです、そうです。花鳥がお節の替玉になって、久兵衛を殺したんですよ」
「その二人はどういう関係があるんですか」
「お節の親父の磯野小左衛門という奴は、前にもお話し申したとおり、旗本屋敷の渡り用人で……。しかし奉公中に悪いうわさが無かったと云うのは、徳次が探索の疎漏《そろう》で、早く女房に死に別れたせいもありましょうが、年に似合わない道楽者で、方々の屋敷をしくじったのも皆それがためです。そこで、吉原へも遊びに行って、花鳥が大阪屋に勤めている頃の馴染《なじみ》であったんです。娘のお節は容貌《きりょう》も好し、見たところは如何にもしとやかな女ですが、どう
前へ 次へ
全57ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング