僧のくせに、蕎麦屋へ来て天ぷらに霰《あられ》とは、ばかに贅沢をきめるじゃあねえか。その銭はだれに貰った。それとも盗んだのか、くすねたのか。はっきり云え」
宇吉は黙っていた。
「さあ、正直に云え。ぐずぐずしていると、番屋へ引き摺って行って引っぱたくぞ」と、半七はその腕を一つ小突いて嚇し付けた。
「店の新どんに貰ったんです」と、宇吉は吃《ども》りながら云った。
「新どんとは誰だ」
「店の若い衆で、新次郎というんです」
「新次郎……。このあいだの晩、若いおかみさんを捉まえようとして、剃刀をぶつけられた奴だな。お前はふだんから新次郎に銭を貰うのか」
宇吉はだまっていた。
「こいつ、強情な奴だ。さあ、来い。番屋の柱へ縛《くく》りつけて、絞めあげるから……。ええ、泣いたって勘弁するものか。この河童野郎め」
半七は容赦なしに小僧を引き摺って行った。
五
近所の自身番へ連れ込まれて、宇吉は素直に申し立てた。彼はお節や新次郎から幾らかの小遣い銭を貰って、六月以来、山谷の里方《さとかた》へ五、六たび使いに行ったことがある。いつも手紙を届けるだけであるから、その用向きは知らないと云った
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