。おかみさんと新次郎とは何か訳があるのかと訊かれて、宇吉はそれも知らないと答えた。
「きょうも手紙を届けに行ったのか」
「新どんの手紙を持って行ったんです」
「向うから返事をくれたか」
「返事は無いというので、そのまま帰って来ました」
 半七は舌打ちした。届けにゆく途中で取り押さえて、その密書を手に入れれば、なにかの秘密をさぐることが出来たのであるが、空手《からて》で帰る途中ではどうにもならない。彼は少しく思案して、自身番の男に云った。
「もし、定番《じょうばん》さん。わたしが引っ返して来るまで、この小僧を奥へほうり込んで置いてください。縛って置くにゃあ及ばねえが、逃がさねえように気をつけて……」
 宇吉をそこに預けて、半七は自身番を出た。それから蕎麦屋へ帰ってくると、日の暮れる頃に徳次が顔を見せた。
「どうだ。なんにも当りはねえか」
 小僧の一件を聞かされて、徳次はうなずいた。
「そうして、その小僧はどうした」
「番屋へ預けて置きました」と、半七は云った。「日が暮れても小僧が帰らなけりゃあ、新次郎という奴は不安心に思って、ここへ様子を見に来るかも知れません。そこを何とかしようじゃああ
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