た。
「ありがとうございます。就きましては、もう時分《じぶん》どきでございますから、ほんのお口よごしでございますが召し上がって頂きとう存じます」
いつの間にか云い付けてあったと見えて、料理の膳がそこへ運び出されたので、徳次も半七も箸をとった。そのあいだにも、お節のことに就いて徳次はいろいろのことを訊《き》いていた。品川から来たという男の人相や年頃なども訊きただした。
「食べ立ちで失礼だが、御用が忙がしいからお暇《いとま》をします」
飯を食ってしまうと、二人は怱々《そうそう》にここを出て、新堀の川伝いに、豊海橋から永代僑の方角へぶらぶら歩いて行った。こんにちの永代橋は明治三十年に架け換えられたもので、昔とは位置が変っている。江戸時代の永代橋は、日本橋の北新堀から深川の佐賀町へ架けられていたのである。
「おい、半七、おめえは何か見付け出したか。この一件をどう鑑定する」と、徳次はあるきながら訊いた。
「さあ、駈け出しのわたし等にゃあよく判りませんが、お節という嫁は生きているのでしょうね」
「そうだ、生きているに違げえねえ」と、徳次はうなずいた。
「鍋久の土蔵から金を持ち出したのも、お節が
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