二組の捜索隊は先生を呼びながら、闇の夜道をたずねて歩いているうちに、伊太郎を先立ちのひと組が路ばたに倒れている師匠の死骸を発見した。そこには一本の大きい榛《はん》の木が立っていて、その下を細い田川が流れている。左内はその身に数カ所の傷を受けて、木の根を枕に倒れていたのである。
それから五日の後である。この頃は朝夕が肌寒くなって、きょうも秋時雨《あきしぐれ》と云いそうな薄|陰《ぐも》りの日の八ツ半(午後三時)頃に、ふたりの男が富士裏の田圃路をさまよっていた。半七とその子分の亀吉である。
「ねえ、親分。わっしにゃあまだ判らねえ。後生《ごしょう》だから焦《じ》らさずに教せえておくんなせえ。その変な声というのがどうして聞えるのか、いくら考えても見当が付かねえ」と、亀吉はあるきながら云った。
「神田から駒込まで登って来るあいだに、まだ考え付かねえのか」と、半七は笑った。「おれにゃあちゃんと判っている。それはズウフラだ」
「ズウフラ……。ああ、判った、判った」と、亀吉も笑い出した。「和蘭《オランダ》渡りで遠くの人を呼ぶ道具……。吹矢《ふきや》の筒のようなもの……。成程それに違げえねえ。わっしも一
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