ているうちに、底の方から半紙の屑を発見した。半紙は幾きれにも引き裂いて丸めてあるので、その皺を伸ばして継ぎ合わせてみると、女の筆の走り書きで、書いては消し、消しては書き、どうも思うように書けないので、中途で引き裂いて紙屑籠へ押し込んでしまったらしい。したがって、文意はよく判らないが、ともかくも、「五年前のことを忘れたか――不人情な男――死んで恨みを晴らしてやる――蝋燭が物を云う――」と、これだけの事はおぼろげに推察された。
 蝋燭が物を云うは、お光の口からも洩らされているので、別に新らしい発見でもなかったが、五年前のことを忘れたか――この一句は半七の胸に強く響いた。それによると、金の蝋燭に絡《から》んだ一種の秘密は五年以前の出来事であるらしい。江戸城本丸の金蔵破りは先々月の六日であるから、五年以前の出来事と無関係であるのは判り切っている。金蔵やぶりの盗賊が証拠|湮滅《いんめつ》のために、小判を地金に鋳潰して蝋燭に作り換えたものではないかと、今までひそかに見込みを付けていたのであるが、その推定は土台から引っくり返されることになった。五年以前の秘密、それが何であるかを改めて詮索しなければな
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