らないと、半七は思った。
勿論、一つの犯罪を探索しているうちに、その見込み違いから、更に犯罪を発見するような例は、これまでにもしばしば経験があるので、半七は今さら驚くという程でもなかったが、見込み違いは確かに見込み違いである。彼は一種の失望を感じた。
そこへ幸次郎が威勢よく飛び込んで来た。彼は半七を座敷へひき戻して口早にささやいた。
「親分、魚《さかな》はやっぱり大きいようです。辻倉の若い者に訊いたら、ここのおかみさんを乗せて行った先は、本所のももんじい屋の近所の錺屋《かざりや》だそうですよ」
ゆく先が錺屋というので、彼は大いに意気込んでいるらしいが、今の半七の考えはもう違っていた。然し金の蝋燭をかかえて身を投げた女――それが、古今に例のない不思議の出来事であるだけに、彼の職業的興味は再び湧き起った。それが五年前の出来事であるにもせよ、金蔵やぶりと無関係であるにもせよ、進んでその秘密を発《あば》かなければならないと思うにつけて、金の蝋燭と錺屋、そこに離るべからざる連絡を見いだしたのを喜んだ。彼はお由を座敷へ呼んで訊いた。
「おい、本所から来る増さんというのは、錺屋かえ」
「はい。
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