り付いて云った。
「さあ、おれが送ってやろう。ここらには悪い奴もいる、悪い狐もいる。土地の者が付いていねえとどんな間違いが起るかも知れねえ」
まずこう嚇して置いて、彼は無理に送り狼になろうとすると、女は別に拒《こば》みもしないで、黙って彼に送られて行った。その途中、元八が何か馴れ馴れしく話しかけても、殆んど唖のように黙りつづけているのを見ると、彼女がこの不安な親切者を悦んでいないのは明白であった。それでも元八は執拗《しつこ》く絡み付いて行くうちに、やがて田圃路を通りぬけて、二人はやや広い往来へ出た。それを右へ切れて更に半町ほども行くと、元八の云った通り、路端に小さい雑木《ぞうき》の森が見いだされた。
「姐さん。この森を抜けた方が近道だ」
彼は女の手をつかんで、薄暗い木立《こだち》の奥へ引き摺り込もうとすると、女は無言で振り払った。元八はひき戻して、再びその手を掴んだ。
「おい、姐さん。そんなに強情を張るもんじゃあねえ。まあ、素直におれの云うことを……」
その言葉が終らないうちに、彼の襟髪は何者にか掴まれていた。はっ[#「はっ」に傍点]と驚いて見かえる間もなく、彼は冷たい土の上に手
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