ひどく投げ付けられた。いよいよ驚いた彼は、顔をしかめて這い起きながら見あげると、その眼の前には虚無僧すがたの男が突っ立っていた。自分を投げた男ばかりでなく、ほかにも猶ひとりの虚無僧が女を囲うように附き添っていた。
相手は二人で、しかもそれが虚無僧である以上、相当に武芸の心得があるかも知れないと思うと、元八は俄に気怯《きおく》れがして、彼らに敵対する気力もなかった。虚無僧は無言で立っていたが、天蓋の笠越しに屹《きっ》とこちらを睨んでいるらしいので、元八はいよいよおびえた。彼はからだの泥を払いながら、これも無言ですごすごと立ち去るのほかはなかった。
七、八間ほども引っ返して、元八はそっと見かえると、虚無僧らの姿も女のすがたも、もうそこらに見えなかった。彼らは森のなかへ入り込んだらしかった。
「あいつらは道連れかな」と、元八は立ちどまって考えた。折角つけて行った女を横合いから奪われて、おまけに手ひどく投げ付けられて、彼はくやしくてならなかった。勿論、正面から手出しは出来ないのであるが、さりとて此の儘おめおめと別れてしまうのも何だか残念である。あの女は一体何者であるのか、彼女と虚無僧らとど
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