て、今はその伜が二代目を継いでいる。平七と藤次郎を引っ立てて行ったのは、その子分の妻吉という男であった。
「ひとりは鋳掛職の平七、ひとりは建具屋の藤次郎、それに相違あるめえな」と、妻吉はまず念を押した。
「てめえ達は雨のふる最中に、泥だらけになって何を騒いでいるんだ」
「へえ。おたがいに気が早いもんですから、つまらないことで喧嘩を始めました。お手数《てかず》をかけまして相済みません」と、年上だけに藤次郎が先に答えた。
「いや、喧嘩の筋も大抵わかっている。これ、平七。貴様は三月二十一日の朝、鋳掛屋の庄五郎と一緒に川崎へ行く約束をしたそうだな」
「へえ」
「この藤次郎と三人で行く約束をしたのだそうだが、その朝は貴様が一番さきに行っていたな」
「いえ。出がけに庄五郎の家《うち》へ声をかけましたら、もう出て行ったということでございました」
「嘘をつけ」と、妻吉は行灯のまえで睨みつけた。「貴様は先に行っていて、それから引っ返して家へ行ったのだろう。真っ直ぐに云え」
「いえ、出がけに寄ったのでございます」
 妻吉は舌打ちした。
「やい、やい。つまらねえ手数をかけるな。なんでも話は早いがいい。貴様は
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