判らないが、前後の事情から考えて、又その模様から判断して、それが普通の心中でないことは半七にも想像された。勝次郎は痣娘にその若い命をちぢめられたらしい。それについて藤左衛門は眼をふきながら云った。
「お役目の方が御覧になりましたなら、何もかもお判りでござりましょうから、なまじいに隠し立てはいたしません。娘は思いあまって、こんな事になったのであろうと存じます。これが人なみの娘でござりましたなら、たといどんな片輪者でござりましょうとも、勝次郎さんにもよく頼んで、なんとか添い遂げる御相談のしようもあるのでござりますが、どうもそれがなりませんので……」
云いさして彼は声を呑んだ。その白い鬢《びん》の毛のかすかにふるえているのも痛ましく見えて、半七も思わず眼をしばたたいた。
「いや、判りました。もう仰しゃるには及びません。何もかもお察し申して居ります。ついては棟梁」と、かれは大五郎を見かえった。「おまえさんも弟子ひとりを取られて、さぞ残念には思うだろうが、これも因縁ずくで仕方がねえ。なんにも云わずに、この二人は心中ということにして、こららの家《うち》の菩提所へ合葬してやったらどうだね」
「何分
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