のは、なにか仔細がなければならねえ。その家《うち》には悪い病気の筋がある。おそらく癩病か何かの血筋を引いているのだろう。おやじは幸いに無事でいても、その子供たちは年頃になると悪い病いが出る。そこで、奥州へやったの、北国へやったのと云って、どこか知らねえ田舎に隠しているに相違ねえ。家にのこっているお早という娘が去年から悪いというのも、やっぱりそれだ。唯の病気ならば誰にも顔を見せねえという筋はねえ。人に見られねえように、どっかに隠れて養生しているんだろう。考えてみれば可哀そうなものだ」
「それにしても、そのお早という女が勝次郎に逢いに来たんでしょうか。それがまだわからねえ」
「わからねえことがあるものか」と、半七はまた笑った。「その女は顔に青い痣《あざ》があるというじゃあねえか。それはもう病気の発しているのを何かの絵具《えのぐ》で塗りかくして、痣のように誤魔化しているんだ。それだから相手の男をいつも清水山の薄暗いところへ連れ込んでいるんだろう。勝次郎は往来のまん中で不意にその女に出っくわしたように云っているが、どうもそうじゃあねえらしい。この六月から七月にかけて小ひと月ほども仕事に行ってい
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