、今まで余り多くの注意を払っていなかったが、化け物のような女がこの清水山に執着しているのを考えると、今更のように又いろいろのことが思いあわされて、かれの恐怖は日ましに募るばかりであった。さりとて、宿がえをすることも出来ない、まさか他国へ逃げてゆく訳にも行かない。いっそ思い切って誰かに打ち明けて、その知恵を借りようかと思いながら、それもやはり躊躇して日を送るあいだに、かの山卯の喜平の探検がはじまった。
半七が鑑定した通り、脛に疵もつ彼はわざと強そうなことを云って、喜平と一緒に清水山へゆくことを約束したが、勿論そんな気はないので、山卯のいたずら小僧に百文の銭をやって、仕事場の材木を不意に倒しかけて喜平を嚇《おど》そうと企てたのであるが、その計略は成就《じょうじゅ》しそうもなかったので、かれは更に他の口実をかまえて、喜平の仲間にはいることを避けたのであった。それにしても、万一かの喜平らのために怪しい女の正体を見あらわされはしまいかと、勝次郎は内心ひやひやしていたが、不思議なことには、かの探検がはじまってから、お勝という女はそこに姿をみせなくなった。勝次郎の家へも尋ねて来なくなった。
喜平
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