出した。
「だが、利助。おまえはどうも評判がよくないようだぞ。子供だといっても、もう十六だ。物事の善い悪いはわかっている筈だのに、なぜあんな悪いことをした」
だしぬけに睨みつけられて、利助は呆気《あっけ》にとられたように相手の顔を見あげていると、半七はたたみかけて云った。
「おれは三河町の半七だ。嘘をつくと縛ってしまうぞ。おまえは先月、あの喜平と大工の勝次郎とが清水山へ行く相談をしている時に、誰にたのまれて仕事場の材木を倒した」
さすがのいたずら小僧も俄かに顔の色かえて、唖《おし》のように黙ってしまった。
「なぜ黙っている。なぜ返事をしねえ。さあ、誰にたのまれて丸太を倒した。大きい丸太が倒れて来て、人の脳天でもぶち割ったらどうする。貴様はまぎれなしの下手人《げしゅにん》だぞ。そんな悪い事をなぜしたのだ。なんぼ貴様がいたずらでも、自分ひとりの料簡でそんなことをしたのじゃあるめえ。だれに頼まれて、そんなことをした。その頼みを白状しろ」
利助はうつむいたままで、やはり黙っていた。
「論より証拠、自分にうしろ暗いことがないのなら、なぜそんなところに隠れて立ち聴きをしていたのだ。いくら貴様
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