が強情を張っても、おれはちゃんと知っているぞ」と、半七は笑った。「そんなに隠すならおれの方から云って聞かせる。あの丸太を倒せと教えたのは、大工の勝次郎だろう。どうだ、まだ隠すか」
如何にいたずらでも強情でも、ことし十六の小僧は半七の敵ではなかった。一々図星をさされて、利助はとうとう降参した。かれは半七の問いに落ちて、このあいだ仕事場で材木を倒したのは、自分の仕業に相違ないと白状した。それを頼んだのは確かに大工の勝次郎で、かれから百文の銭《ぜに》をもらって、そっとかの材木を倒したのであると云った。しかし勝次郎は身銭《みぜに》を切って、なぜそんな悪い知恵を授けたのか、それは利助も知らないらしかった。かれは生来のいたずらから、面白半分の人騒がせになんの考えもなく引き受けて、小さい身体を材木のかげに潜ませ、不意にその一本を倒しかけたに過ぎないのであった。
その白状を残らず聞いた上で、半七は利助を番頭のところへ連れて行った。そうして、あらためてこの小僧を番屋へ呼び出すまでは、決して表へ出してはならないと堅く戒めて帰った。
五
半七は山卯の材木店を出て、ふたたび柳原の通りへ引っ
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