まいました」
「意気地のない奴だな」
「まったく意気地のない奴ですよ」
勝次郎の寝がえりを余ほど忌々《いまいま》しく思っていたとみえて、喜平は彼をこきおろすように云った。
「その勝次郎はきょうも来ているかえ」と、半七は訊《き》いた。
「いいえ、来ていません。このごろは石町《こくちょう》の油屋へ仕事に行っているそうです」
「そうか。じゃあ、その利助という小僧を呼んで貰おう。ただ黙って連れて来てくれ」
「はい、はい」
喜平は引っ返して行こうとして、にわかに声を尖《とが》らせた。
「やい、この野郎」
その声におどろいて、半七も見かえると、喜平はうしろの材木のかげから一人の小僧をひきずり出して来た。それはかのいたずら小僧であることを半七もすぐ覚った。
「親分さん。こいつが利助です。やい、手前はさっきからそこに隠れていて、なにを立ち聴きしていやあがったんだ」と、喜平はかれの胸を小突きながら半七の前に突き出した。
「まあ、小さい者をそう叱るな。喜平どん、一緒にいちゃあ調べるのに都合がわるい。ちっとあっちへ行っていてくれ」
まだ不安らしい眼をして睨んでいる喜平を追いやって、半七はしずかに云い
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