縄張り内に起ったのがお前の不祥だ。誰か若い奴らでもやって、ひと通りは詮議させてくれ」
半七ほどの御用聞きに対して、いかに役目でもこんな仕事を直接に働けとは云いにくいので、子分の若い者どもに勤めさせろと云いつけたのである。それは半七も呑み込んでいるので、こころよく承知した。
「自分の鼻の先のことを御指図で恐れ入りました。実は若い奴らからそんな話を聞かないでもなかったのですが、ほかの御用に取りまぎれて居りまして……」
「いや、忙がしくなくっても、こんなべらぼうな仕事は立派な男の勤める役じゃあねえ」と、金太夫はまた笑った。「清水山というと大層らしいが、堤の幅にしてみたら多寡が三、四間、おそらく五間とはあるめえ。高さだって知れたもので足長島の人間ならば一とまたぎというくらいだ。そんなところに鬼が棲むか、蛇《じゃ》が棲むか、大抵はわかり切っているわけだが、昔から忌《いや》な噂のあるところだけに、世間の騒ぎは大きいのだろう。尤も江戸というところは油断は出来ねえ。灰吹《はいふき》からも大蛇《だいじゃ》が出るからな」
「ごもっともでございます」と、半七も笑った。「まったく油断は出来ません。では、早速
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