どこからか現われて来て、不意に彼らふたりを撲《なぐ》りつけたのであろう。こう考えて来ると喜平らは急に腹立たしくもなった。
「奴らはきっと泥つくだぜ」と、銀蔵は着物の泥をはたきながら云った。「さもなけりゃあ博奕《ばくち》打ちだ」
清水山が魔所と恐れられているのを幸いに、一団の賊がそこを隠れ家にしているのか。あるいは博奕打ちの仲間がそこに入り込んで、ひそかに賭場を開いているのか。二つに一つであろうと彼らが判断したのも無理はなかった。
「そう判ったら構うことはねえ。押し掛けて行ってやろうじゃねえか」と、喜平はなぐられた頬を撫でながらいきまいた。
「むむ、だが、向うが大勢だと剣呑《けんのん》だぜ」
銀蔵はまた二の足を踏んだ。かれらの仲間が二人いることは確かである。まだそのほかにも幾人かの仲間が潜んでいるかも知れない。そこへ自分たちふたりが空手《からて》でうかうかと踏み込むのは危険であるまいかと、かれは云った。それを聞いて、喜平もすこし不安になって来た。こうなると化け物よりも人間の方が却っておそろしくなる。泥坊にしろ、博奕打ちにしろ、相手が大勢で袋叩きにでもされるか、あるい後日《ごにち》の難
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