十を二つ三つ越えて商売馴れている孫十郎は早くもそれを看《み》て取った。
「それはなかなか古いものでございます。作は判りませんが、やはり出目《でめ》あたりの筋でございましょうかと存じます」
「出目ではない」と、男はひとり言のように云った。「しかし同じ時代のものらしい。して、この価《あたい》はどれほどかな」
「どうもちっとお高いのでございますが、お懸け引きのないところが二十五両で……」
 男は別におどろいたような顔もしなかった。たとえそれが越前国の住人大野出目の名作でなくとも、これほどの仮面が二十五両というのは決して高くない。むしろ廉《やす》過ぎるくらいであるので、かれは少し疑うような眼をして、更にその仮面をうちかえして眺めていたが、やがてそれを下に置いて、小僧が汲んで来た茶をのみながら云った。
「では、二十五両でいいな」
「はい」と、孫十郎はかしらを下げた。
「ところで、御亭主。わたしは通りがかりでそれだけの金を持っていないから、手付けに三両の金をおいて行く。どうだろうな」
 それは珍らしいことではないので、孫十郎はすぐに承知した。約束がきまって、男は三両の金を渡したので、孫十郎は仮《か
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