に立った。ここは道具屋といっても、二足三文《にそくさんもん》のがらくたを列《なら》べているのではない。大名旗本や大町人のところに出入り場を持っていて、箱書付きや折紙付きというような高価な代物をたくさんにたくわえているのであった。
 男はひとりの若い供をつれていた。かれは三十五六の人品のよい男で、町人でもなく、さりとて普通の武家でもないらしい。寺侍にしては上品すぎる。あるいは観世《かんぜ》とか金剛《こんごう》とかいうような能役者ではないかと、店の主人の孫十郎は鑑定していると、男は果たして店の片隅にかけてある生成《なまなり》の古い仮面《めん》に眼をつけた。それは一種の般若《はんにゃ》のような仮面である。かれは眼も放さずにその仮面を見つめていたが、やがて店のなかへ一と足ふみ込んで、そこにいる小僧の豊吉に声をかけた。
「あの面をちょいと見せて貰いたい」
「はい、はい」と、豊吉はすぐに起ってその仮面をおろして来た。
 客の筋がわるくないとみて、孫十郎も起って出た。
「どうぞおかけ下さい。豊吉、お茶をあげろ」
 男は仮面を手にとって、又しばらく眺めていた。よほど感に入ったらしい顔色である。ことし五
前へ 次へ
全17ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング