り》請取《うけとり》をかいて渡した。帰るときに、男は念を押して云った。
「それでは明日の今時分にくる。云うまでもないことだが、余人に売ってくれるなよ」
売り買いの約束が出来て、すでに手付けの金を受け取った以上、もちろん他に売ろう筈はないので、孫十郎はその客のうしろ姿を見送ると、すぐに豊吉に云いつけて、その仮面を取りはずさせた。それから一刻《いっとき》あまりを過ぎて、孫十郎が奥で午飯《ひるめし》をくっていると、小僧が店からはいって来た。
「旦那に逢いたいと云って、立派なお武家がみえました」
「どなただ」
「初めてのお方のようでございます」
「店へお上げ申して、お茶をあげて置け」
早々に飯をくってしまって、孫十郎は店へ出てゆくと、今度の客は羽織袴、大小のこしらえで、二十二三の立派な武士であった。かれは店へあがって、客火鉢のまえに坐っていた。
「わたくしが亭主の孫十郎でございます。お待たせ申しました」
挨拶のすむのを待ち兼ねたように、武士は店の隅へ眼をやりながら訊《き》いた。
「早速だが、きのうまであすこにかかっていた生成《なまなり》の仮面、あれはどうしたな」
「あれはけさほど御約束が
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