商人をつれ込み、相手を玄関口に待たせて置いて、その品物をうけ取ったまま奥へはいって、どこへか姿を隠してしまうものもある。あるいは座敷へ通して置いて、腕ずくで嚇して奪い取るものもある。近所の者ならばそれが空屋敷であることを大抵承知しているが、遠方の者はそれを知らないで、うっかり連れ込まれるのである。それであるから、白昼《まひる》のあかるい時には決してその被害はない。かれらはなんとか口実を設けて、いつでも暗い夜に相手をおびき出すのである。おなじ場所で幾たびも同一の手段を繰り返せば、たちまちに足のつく虞《おそ》れがあるので、一つ場所ではせいぜい二度か三度ぐらいにとどめて、更にほかの場所を選ぶのを例としている。したがって、今度の鶉の一件もおなじ奴らの仕業であることは判り切っていた。
「だが、今度のは今までと違って、すこし新手《あらて》だな」と、半七は笑いながら云った。
「奴らもいろいろに工夫《くふう》するんですね」と、松吉も笑った。「それにしても、一つ目小僧とは考えたね。悪くふざけた奴らだ」
「まったくふざけた奴らだ、あんまり人を馬鹿にしていやがる。今度こそは何とかして退治《やっ》つけてやりて
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