もくやしい」
 かれは帰る途中でいろいろに思案したが、どちらとも確かに分別がつかないので、家へ帰って町内の家主《いえぬし》に相談すると、家主は眉をよせた。
「いや、それはちっとも知らなかった。実はこの五、六日前にも、やっぱり同じ空屋敷で五十両の茶道具をかたられた者があるという噂だ。そういうことを打っちゃって置いて、その悪者がお召し捕りになったときには、おまえもお叱りをうけなければならない。ちっとも早くお訴えをして置くことだ」
 家主に注意されて、喜右衛門はすぐにその次第を訴え出た。

     二

 大木戸の出来事ではあるが、神田の半七がその探索をうけたまわって、子分の松吉を連れて山の手へのぼって行った。その途中で松吉はささやいた。
「親分。みんな同じ奴らですね」
「それに相違ねえ、方々のあき屋敷を仕事場にして、いろいろの悪さをしやがる。世話のやける奴らだ」
 このごろ山の手のあき屋敷へ商人《あきんど》をつれ込んで、いろいろの手段でその品物をまきあげるのが流行する。本郷の森川|宿《しゅく》や、小石川の音羽《おとわ》や、そのほかにも大塚や巣鴨や雑司ヶ谷や、寂しい場所のあき屋敷をえらんで
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