れたが、十五両の鶉が二足三文《にそくさんもん》の駄鶉に変っているにも又おびやかされた。病中に奉公人どもが掏り替えたのか。それとも細井の化け物屋敷で殆ど気を失ったように倒れているあいだに、素早く掏りかえられたのか。二つに一つに相違ないと喜右衛門は判断した。
 万一それが奉公人の仕業《しわざ》であるとすると、迂闊に口外することが出来ないと思って、喜右衛門はそのままに黙っていた。九月になって、かれはもう床払いをするようになったので、早速新屋敷へたずねて行って見ると、見おぼえのある古屋敷はそこにあった。しかし其処には住んでいる人がなかった。近所で訊くと、そこには細井という旗本が住んでいたが、なにかの都合で雑司ヶ谷の方へ屋敷換えをして、この夏から空《あき》屋敷になっていることが判った。もう疑うまでもない。悪者どもが徒党して、喜右衛門をこの空屋敷へ誘い込んで、不思議な化け物をみせて嚇しておいて、持参のうずらを奪い取ったのである。一両の手付けを差し引いても、かれは十四両の損をさせられたのであった。この時代に十両以上の損は大きい。喜右衛門は蒼くなった。
「訴え出れば、引き合いが面倒だ。泣き寝入りするの
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