えもんだ」
 ふたりは伝馬町の野島屋へ行って、主人の喜右衛門に逢ってその晩の様子を訊《き》いた。化け物の正体も詳しく聞きただした。喜右衛門は年甲斐もなく物におびえて、その化け物の正体をたしかには見とどけなかったのであるが、一つ目といっても、絵にかいてあるいわゆる一つ目小僧のように、顔のまん中に一つの目があるのではなかった。単に左の目が一つ光って見えたらしかった。
 二つの目を満足にもっている者が、なにかで片目を塞いでいたのであろうと半七は想像した。口が裂けているように見えたのも、何かの絵の具で塗りこしらえたに相違ない。牙なども何かで作ったものであろう。こう煎じつめてくると、一つ目小僧の正体も大抵わかった。所詮は喜右衛門の臆病から、こんな拵《こしら》えものにおびやかされたのである。しかし臆病が却《かえ》ってかれの仕合わせであったかも知れない。彼がもし気丈の人間で、なまじいにその化け物を取り押えようなどとしたら、奥にかくれている同類があらわれて来て、彼のからだにどんな危害を加えたかも知れない。一つ目小僧におどされて、十五両の鶉をまきあげられた方が、かれに取ってはむしろ小難であったらしく思わ
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