れた。
「御苦労だが、その屋敷まで案内してくれ」
 半七は喜右衛門を案内者として、すぐに新屋敷まで出向いた。なるほど古い屋敷ではあるが、夜目に門がまえを見ただけでは、それが無住の家であるかどうかを覚《さと》られそうにもなかった。門内も玄関先のあたりだけは、草が刈ってあった。あき屋敷と覚られまいために、おそらくその前夜か昼のあいだに草刈りをして置いたのであろう。半七は彼等のなかなか注意ぶかいことを知った。
「どうします。踏み込みますか」と、松吉はきいた。
「ともかくも一応はあらためなければいけねえ」
 かれらがもう巣を変えてしまったことは判っているが、それでも何かの手がかりを発見しないとも限らないので、半七は先に立って内玄関からはいり込むと、松吉と喜右衛門もあとから続いた。喜右衛門が通されたという八畳の座敷へはいって、縁側の大きい雨戸をあけ放すと、秋の日のひかりが一面に流れ込んで来た。
「なるほど、内はずいぶん荒れているな」と、半七はそこらを見まわしながら云った。
「わたくしもひどい荒れ屋敷だと思っていましたが、まさかに空屋敷とは……」と、喜右衛門も今更のように溜息をついていた。
 壁の
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