《いりや》の長屋にいる周悦という今年十四歳の小按摩がおかしい。こいつは子供の時にいたずらをして、竹きれで眼を突き潰したので、片目あいていながら按摩になって、二十四文と流して歩いているうちに、馬道《うまみち》の下駄屋へたびたび呼び込まれて懇意になると、そこの亭主が悪い奴で、この小按摩を巧くだまし込んで、療治に行った家の物を手あたり次第にぬすませて、自分が廉《やす》く買っていたんです。そのうちに、この亭主が悪御家人と共謀して、あき屋敷を仕事場にすることになったんですが、自分の近所は感付かれる懸念《けねん》があるので、いつも遠い山の手へ行って仕事をしていました」
「その按摩も同類なんですね」
「しかし今までは、相手を玄関に待たせて置いて、その品物を裏門から持ち逃げしたり、相手がなかなか油断しないとみると、奥へ通して腕ずくで脅迫したりしていたんですが、人間というものは奇体なもので、いくら悪党でも同じ手段をくりかえしていると、自然に飽きて来るとみえて、相談の上で更に新手《あらて》をかんがえ出したのが怪談がかりの一件です。下駄屋の発案で、それにはこういう一つ目小僧の按摩がいるというと、それは妙だと
前へ 次へ
全18ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング