」
「もう引き揚げますかえ」と、松吉はなんだか物足らなそうに云った。
「いつまで化け物屋敷の番をしていてもしようがねえ。日が暮れると、また一つ目小僧が出るかも知れねえ」
半七は笑いながらここを出た。途中で喜右衛門にわかれて、半七と松吉は裏路づたいにしずかに歩いた。
「おい、松。これはなんだか知っているか」と、半七は袂から出してみせた。
「へえ。こんなものを……。こりゃあ按摩の笛じゃありませんかえ」
「むむ。台所の土間に米のあき俵が一つ転がっていた。その下から出たのよ。痩せても枯れても旗本の屋敷で、流しの按摩を呼び込みゃあしめえ。あんなところに、どうして按摩の笛が落ちていたのか。おめえ、考えてみろ」
「なるほどね」
松吉は首をひねっていた。
「これで一つ目小僧の正体はわかりましたよ」と、半七老人はわたしに話した。「初めは片目をなにかで隠しているのかと思いましたが、この笛を拾ったので又かんがえが変りました。松吉やほかの子分どもに云いつけて、江戸じゅうに片目の小按摩が幾人いるかを調べさせると、さすがは江戸で片目の按摩が七人いましたよ。そのなかで肩あげのある者四人の身許を探索すると、入谷
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