足が痙攣《けいれん》して、それから半※[#「日+向」、第3水準1−85−25]《はんとき》ばかりの後に息を引き取った。父の由五郎が仕事場から戻って来たときには、可愛いひとり息子はもう冷たい亡骸《なきがら》になっていた。
あまりの驚愕に涙も出ない由五郎は、いきなり女房の横っ面を殴り飛ばした。
「この引き摺り阿魔め。亭主の留守に近所隣りへ鉄棒《かなぼう》を曳いてあるいていて、大事の子供を玉無しにしてしまやあがった。さあ、生かして返せ」
由五郎はふだんから人並はずれた子煩悩で、ひと粒種の由松を眼のなかへ入れたいほどに可愛がっていた。その可愛い子が留守の間に頓死同様に死んだのであるから、気の早い職人の彼は、一途《いちず》にそれを女房の不注意と決めてしまって、半気違いのようなありさまで彼女に食ってかかったのも無理はなかった。
「さあ、亭主の留守に子供を殺して、どうして云い訳をするんだ。はっきりと返事をしろ」
彼はそこに居あわせた人達が止めるのも肯《き》かずに、又もや女房をつづけ打ちにした。さなきだに可愛い子の命を不意に奪われて、これも半狂乱のようになっている女房は、亭主に激しく責められて、
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