ていると、夜鷹《よたか》か引っ張りと間違えられる。この寒いのにぼんやりしていねえで、早く家《うち》へ帰って温《あった》まった方がいいぜ。悪いことは云わねえ。早く帰んなせえ」
「はい」
低い声で返事をしながら、若い女はまだ欄干を離れようともしないので、半七はつかつかと立ち寄って女の肩に手をかけた。
「おめえも強情な子だな。節季師走《せっきしわす》に両国橋のまん中に突っ立って何をしているんだ。四十七士のかたき討はもう通りゃあしねえぜ。それともお前、袂に石でも入れているのか」
半七は初めから彼女を身投げと見ていたのであった。時候は節季師走という十二月の宵、場所は両国橋、相手は若い女、おあつらえの道具は揃っているので、彼はどうしてもこの女を見捨ててゆくわけには行かなかった。
「ほんとうに悪い洒落《しゃれ》だ。この寒空につめてえ真似をするもんじゃあねえ。早く行かねえと、引き摺って行って、橋番に引き渡すぜ」
女は黙ってすすり泣きをしているらしかった。どうで死のうと覚悟するほどの女に、涙は付き物と知りながらも、半七はなんだか可哀そうになって来たので、つかまえた手をゆるめながら、優しく云い聞かせ
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