た。
「さっきから俺がこんなに口を利いているのがお前にはわからねえのか。橋番へ引き渡すなんて云ったのは俺が悪い。そんな野暮なことは止めにして、ここでお前の話を聞こうじゃあねえか。そうして、どうでも死ななけりゃあ納まらねえ筋があるなら、おれが手伝って殺してやるめえものでもねえ。また死なずとどうにか済みそうな筋合いなら、古い川柳じゃあねえが、ようごんす袂の石を捨てなせえ、と俺も相談に乗ろうじゃあねえか。おい、黙っていちゃあ困る。なんとか返事をしてくれねえか」
「ありがとうございます」と、女はやはり泣いていた。「折角でございますけれど、どうにもこればかりは申し上げられません」
「そりゃあどうで云いづれえことに相違ねえ。だが、云わずにいちゃあ果てしがつかねえ。くどいようだが決して悪くはしねえ。人に明かして悪いことなら、決して他言もしねえ。おれも男だ。こうして誓言《せいごん》を立てた以上は、かならず嘘はつかねえから、まあ安心して話して聞かせるがいいじゃあねえか」
「ありがとうございます」と、女は又すすりあげて泣いた。
「聞いたような声だな」と、半七は首をかしげた。「さっきもそう思ったが、どうも聞
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