でございまして、自分は千住に住んで居ります」と、惣八は説明した。
「そこも自分の叔母の家で、その二階に厄介になっていて、まあこれといって決まった商売もないのですが、叔父が金魚屋で、その方の手から出たというのですから、今度の金魚もまあ間違いはないと思っているのです。当人も決していかさま物ではないと云うのですが、わたくしも何分その方は素人《しろうと》のことで、実のところはどっちがどうとも確かには判らないので困って居ります」
「元吉というのは幾つだ」
「二十三でございましょう」
「そうか。まあ、そのくらいでよかろう。じゃあ、また呼び出したらすぐに来てくれ」
「かしこまりました」
 籠から放された鳥のように、惣八は怱々に出て行った。そのうしろ姿を見送って、半七は炉のそばで煙草を二、三服つづけて吸っていると、背のたかい男がうす暗い表から覗いた。それは子分の松吉であった。
「親分、いま帰りました」
「やあ、御苦労、寒かったろう。まあ、火のそばへ来い」
「まったく冷えますねえ。風はないが、身にしみます。近いうちに雪かも知れませんよ」と、松吉は店へあがって炉のまえに坐った。
「この寒空に金魚を売ろうの
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