ら呶鳴《どな》りつけた。惣八は面喰らって、その仔細をだんだんに聞き糺すと、かの金魚は普通のもので、湯のなかで生きるものではないというのであった。なるほど、ここで試《ため》した時には無事であり、先方へ持って行って試した時にも無事であったが、金魚は二匹ながらその翌日死んでしまった。察するにこれは普通の金魚の肌へ何か薬をぬりつけて、一時を誤魔化したものに相違ない。その薬がだんだん剥《は》げるにしたがって、金魚は弱って死んだのであろう。そんな騙《かた》りめいたことをして済むと思うか。第一、売り先に対してわたしが面目を失うことになる。この始末はどうしてくれると、其月はひたいに青い筋をうねらせて手きびしく責めた。
「親分の前ですが、その時はまったく困りましたよ」と、惣八は今更のように溜息をついた。
三
「すると、その金魚がすぐに死んだので、宗匠は先方に申し訳がないと云うんだね」と、半七はすこし考えていた。「だが、もともと生き物のことだ。飼いようが悪くって死なねえとも限らねえ。時候の加減で斃《お》ちねえとも云われねえ。金魚だって病気もする、それを一途《いちず》にこっちのせいにされちゃあ
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