暑さ以上に燃えて熱して、かれの魂は憤怒《ふんぬ》に焼けただれていた。かれは毎日のように長い手紙をかいて、それを妹に持たせてやって、男の妹の手から憎い男に突き付けさせていた。それほどに彼女の恨みの籠った手紙を、お直が不用意に取り落したと聞いて、お紋はむやみに怒った。一種の鬼女になっているような彼女は、噛みつくようにお直に食ってかかって、こんなことでは今までの手紙もたしかに兄さんにとどけてくれたかどうだか判らないなどと云った。それでもお豊の仲裁で、その方は先ずどうにか納まったが、一方の藤太郎が出て来ないのと、一方のお紋は半気違いのようになっているのとで、お豊が心配している肝腎の善後策は一向に要領を得なかった。彼女もこれには当惑して、お紋をなだめて待たせて置いて、再び藤太郎を呼び出しにゆくと、彼はまだ戻らないとのことであった。或いは隠れているのではないかとも疑ったが、しいて詮議もならないので其の儘むなしく帰ってくると、留守のあいだに大|椿事《ちんじ》が出来《しゅったい》していた。
二階にはお紋の姉妹《きょうだい》とお豊の母とが黙って坐っていた。どの人の顔も真っ蒼になっていた。お豊は又おどろ
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