いて仔細をきくと、かれが出て行ったあとで、執念ぶかいお紋はお直にむかって、その兄に対する恨みを又さんざんに列《なら》べ立てた。それがだんだんに募って来て、わたしがこうして兄さんに捨てられたのも、おまえが蔭へまわって何か讒訴をしているからに相違ないと云い出した。それにはお直も黙っていなかった。彼女は持ち前の強情から飽くまでもそれを否認して、たがいに云い争っているうちに、お紋はいよいよ逆上して、いきなりにお直の胸倉を引っ掴んで小突きまわすと、どうしたはずみか彼女の喉を強く絞めて、十三の小娘はもろくも息が絶えてしまったのである。お豊もそれを聞いて呆気《あっけ》に取られた。よく見ると、まったく嘘ではない。お直は冷たい死骸となってそこに横たわっているので、お豊はあわてて出来るだけの介抱をした。水をのませても、水天宮様の御符《ごふ》を飲ませても、擦《さす》っても揺《ゆす》ぶっても、お直はもう正体がないので、彼女も途方にくれてしまった。
こうなっては、とても自分ひとりの知恵や分別にはあたわないので、お豊は汗を流しながら再び倉田屋へかけ付けた。かれはお紋の母を呼び出して、そっとこの始末を訴えると、母
前へ
次へ
全37ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング