出来《しでか》したとすれば、どうしたって打《う》っちゃって置くことが出来ません。旦那やおかみさんが何と云おうとも、わたくしが黙っていられません。ねえ、親分さん。そうじゃございませんか」
 これはお広の一料簡でなく、甲州屋の親たちも内々のうたがいを懐《いだ》いていながら、迂闊《うかつ》にそんなことを口外することは出来ないので、わざと自分のあとを追わせて、お広の一料簡のつもりで密告させたのではあるまいかと半七は思った。
「それで、そのお力という娘はどんな子だえ」
「やっぱり阿母さんや姉さんにそっくりで、なかなかお転婆の、強い子なんですよ。からだも大きくって、なあ[#「なあ」に傍点]ちゃんと同い年ですけれど二つぐらいも年上にみえます」
「そうか。それじゃあともかくもその倉田屋へ行ってみよう。もう寝たかも知れねえが、まあ其の家《うち》だけでも教えてもらおう」
 お広に案内させて、半七は引っ返した。その瀬戸物屋は甲州屋の隣り町角から四軒目で、間口は三間か三間半ぐらいもあるらしく、その店がまえは悪そうもなかった。表の大戸はもう卸《おろ》してあったが、軒の下に細長い床几《しょうぎ》を置いて、ひとりの
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