若い者と小僧とが涼んでいた。となりの糸屋は店を半分あけていて、その前にもやはり二、三人の男がたたずんで何かしゃべっていた。どこかで籠の虫の声もきこえた。
途中で申し合わせてあるので、お広は近寄って倉田屋の若い者に声をかけた。
「今晩は……。どうもいつまでもお暑いことでございます」
「やあ、今晩は……」と、若い者も挨拶しながら床几を起《た》ちあがった。「ばあやさん。なあ[#「なあ」に傍点]ちゃんは帰りましたか」
甲州屋からは昼間と宵と二度も聞きあわせの使が来ているので、ここの店の者共もお直が家出のことを知っていた。まだ帰らないというお広の返事をきいて、若い者も気の毒そうに云った。
「どうしたんでしょうねえ。内のおかみさんも大変に心配しているんですよ。お力ちゃんが一緒に帰ってきて、途中でこんなことがあっちゃあ、甲州屋さんにも申し訳がないと云って……」
「皆さんはもうお寝《やす》みになりましたか」と、お広は訊《き》いた。
「ええ、おかみさんもお紋さんもよそから帰って来て、もうすこし前に寝ましたが、起しましょうか」
「いいえ、それには及びません」
「ばあやさんはまだ探して歩いているんですか
前へ
次へ
全37ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング