にはもう証拠らしいものはないんだね」
「それに、倉田屋ではどうもなあ[#「なあ」に傍点]ちゃんを怨んでいるらしいんです」と、お広はさらに説明した。
「なあ[#「なあ」に傍点]ちゃんはお力ちゃんのところへ始終遊びに行くので、姉さんのお紋さんともよく識《し》っています。それで、こっちでお紋さんをもらうのを見合わせたのは、なあ[#「なあ」に傍点]ちゃんが何か親たちや兄さんにいいつけ口をしたように思っているらしいんです。一体、お紋さんという子も阿母《おっか》さんに似た見得坊で、おしゃべりのお転婆《てんば》で、近所で誰も褒める者はありゃしません。甲州屋でお嫁に貰うのを見合わせたのも、つまりはそのせいなんですが、それがやっぱり身贔屓《みびいき》で、自分の娘の悪いことは棚にあげて、ふだん遊びに行くなあ[#「なあ」に傍点]ちゃんが、家へ帰って何か讒訴《ざんそ》でもしたように思い込んでいるらしいんです。ひがみ根性の強いおかみさんのことですから、それも仕方がありませんけれども、外道《げどう》の逆恨《さかうら》みでむやみに人を怨んで、おまけに罪もないなあ[#「なあ」に傍点]ちゃんを疑って、万一そんなことを仕
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