二人と小僧が一人と、あわせて一家七人暮らしであるが、喜左衛門は手堅く商売をしているので、世間の評判も悪くない。娘のお朝も先ず十人並の娘で、これまでに悪い噂もなかった。なにしろ親ひとり子ひとりの尾張屋で、その跡取り娘をうしなった喜左衛門のかなしみはひと通りでない。ほかから養子をするか、それともかの重吉をひきあげて相続人にするか、それもまだ決まらないうちに重吉もまた死んでしまったのは、かさねがさねの不幸であった。
「そこで、尾張屋の親類のうちに誰か婿にでもなりそうな奴があるのか」と、半七はまた訊いた。
「さあ、そこまでは知りません」と、庄太は頭をかいた。
「じゃあ、すぐにそれを調べてくれ」
「ようがす」
庄太はうけ合って帰った。
それから三日ほど経って、庄太は再びたずねて来て、尾張屋の親類一門はみな子供に縁のうすい方で、どこにもよそへやるような男の子はない。ただ本所|松倉町《まつくらちょう》に商売をしている三河屋に二人の娘があるので、あるいはその妹娘を尾張屋へくれることになるかも知れないと報告した。
「そこで、その三河屋というのはどんな奴だ」と、半七は訊いた。
三河屋は夫婦ともに揃っ
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