れていた。
かれも雷獣に襲われたらしかった。今度は尾張屋に落雷しなかったが、近所に落ちた雷獣がここへ飛び込んで来たのかも知れないという説もあった。このあいだの事件のあった矢先であるので、重吉の死は雷獣の仕業であると決められてしまった。
神田三河町の半七は、子分の庄太からこの報告をうけて首をかしげた。
「天災といえば仕方もねえが、そう立てつづけて一軒の家《うち》に祟《たた》るのもおかしいな。その重吉というのはどんな男だ」
「主人の遠縁のもので、日光辺の生まれだそうです。年は二十一で、五、六年まえから尾張屋の厄介になってやっぱり店の仕事を手伝っているんですが、どっちかというと孱弱《かよわ》い方で、米屋のような力仕事には不向きなので、遊び半分にぶらぶらしているようでした」
「尾張屋には死んだ娘と主人のほかに誰がいる」と、半七は又|訊《き》いた。
庄太の説明によると、尾張屋は近所でも内福という噂を立てられているが、その家族は多くない。女房のおむつは先年世を去って、ほんとうの家族というのは主人の喜左衛門と娘のお朝の二人だけである。ほかには彼の遠縁の重吉と、下女のおかんと、米|搗《つ》きが
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