目でその身もとを覚って、すぐにその同類を探させたので、訳なしに埒《らち》が明きました。三人の隠れ家は渋谷のおさん婆という女の家でした。この婆がまた悪い奴で、表向きは駄菓子屋をしていながら、この娘三人を引き摺り込んで、盗んで来た品物をほかへ捌《さば》いてやって、中途でうまい汁を吸っていることが露顕したので、これも一緒に召し捕られました。一体ここらは昔から蛇なんぞの多いところでしたが、この一件以来、その空屋敷を蛇屋敷と云い出して、明治になるまで誰も住んでいなかったようです」
老人の話が済んだ頃から、空はだんだんに薄明るくなって来たが、風は死んだように吹かなくなった。風通しのいいのを自慢にしているこの六畳の座敷も息苦しいように蒸し暑くなって、遠い空では時々に雷の音も低くきこえたが、ここへは夕立を運んで来そうにも見えなかった。
「こいつあ降りません。ただ蒸《む》すばかりですよ」と、老人は顔をしかめたが、やがて又笑い出した。「これじゃあ金儲けも出来ませんね」
成程これでは雷獣も飛び込んで来そうも無かった。
底本:「時代推理小説 半七捕物帳(三)」光文社文庫、光文社
1986(昭和
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