間になって、万引や巾着切《きんちゃっき》りや板の間稼ぎなどをやっていたんですが、下町《したまち》の方でだんだんに人の眼について来たので、このごろは武家の娘らしい姿に化けて、専ら山の手の方を荒しあるいていたんです。ところで、その当日、三人が連れ立って新屋敷を通りかかると、例の蛇の一件で大勢の人があつまっている。三人もそれを覗いているうちに、お大が小声でこんなことを云い出したそうです。
『どんな玉が這入っているか知らないが、あの蛇の中へ手を突っ込むことは出来まいね』
『なに、訳《わけ》はないよ』と、おとくは平気で笑っていた。
『おまえさん、きっと出来るかえ』と、お大とおもよが念を押すと、おとくはきっと出来ると強情を張ったので、いわば行きがかりの意地ずくで、もしお前がほんとうにあの蛇のなかへ手を突っ込んで見せたらば、おまえをあたし達の仲間の姐御《あねご》にすると二人が云い出すと、おとくはすぐに出て行って、平気で蛇のとぐろのなかへ手を突っ込んで、例の切髪をつかみ出したので、なんにも知らない見物人は勿論、仲間の二人は流石《さすが》にびっくりしたんですが、人に覚《さと》られないようにみんな分かれ分
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