詮議に対して、お千代はこう答えた。かれは昼のあいだは物置に寝ていて、日が暮れてから何処へか出てゆく。帰ってくる時も夜である。ここらは人家が少ない上に、大抵の家では宵から戸を閉めてしまうので、今まで誰にも覚《さと》られなかったのであろう。現にゆうべも宵からどこへか出て行って、夜の明けないうちに戻って来て、あさ飯には小さいそうだ[#「そうだ」に傍点]鰹一尾を食って、その骨を庭さきへ投げ出して置いて、物置へはいって寝てしまったとのことであった。
半七はすぐにお千代を案内者にして、おとわの家へ踏み込んだが、生魚を食う男のすがたは物置のなかから見いだされなかった。あるじのおとわも見えなかった。箪笥や用箪笥の抽斗《ひきだし》が取り散らされているのを見ると、かれは目ぼしい品物を持ち出して、どこへか駈け落ちをしたらしく思われた。
木場の旦那は今夜来るはずだとお千代が云ったので、半七は幸次郎とほかに二人の子分をよびあつめて、おとわの空巣《あきす》に網を張っていると、果たして夕六ツ過ぎに、その旦那という男が三人連れでたずねて来た。
連れの二人はすぐに押えられたが、旦那という四十前後の男は匕首をぬいて
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