うとう素直に白状した。
去年の冬の夜に、乞食だか仙人だか山男だか判らないような男がおとわをたずねて来た。どこから来たのか、それは知らないとお千代は云った。なんでもおとわが金をやっているらしかったが、男はそれを受け取らなかった。おとわは結局かれを物置へ連れ込んで住まわせることにした。男はときどきに抜け出して何処へかゆく。そうして、又ふらりと帰ってくる。不思議なことには、かれは好んで生魚を食う。勿論、普通の煮物や焼物も食うのであるが、そのほかに何か生物を食わせなければ承知しない。かれは生魚を頭からむしゃむしゃ食うのである。かれはふところに匕首を忍ばせていて、生魚を食わせないと直ぐにそれを振り廻すのである。それにはおとわも困っているらしい。お千代も気味を悪がって、なんとかして暇を取りたいと思っているが、主人からは余分の心付けをくれて、無理に引き留められるので困っている。どう考えても、あの男は一種の気ちがいに相違ない。しかし主人とどういう関係にあるのか、それはちっとも知らないとお千代は云った。
それにしても、そんな怪しい人間が出這入りするのを、近所で気が付かない筈はないと半七は思った。その
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