もうかの潮干狩から半月ばかり後であった。神田三河町の家へ帰ると、半七はすぐに子分の幸次郎をよんで、清次という若い船頭の身許をしらべろと命令した。幸次郎は受け合って帰ったが、そのあくる日すぐに出直して来た。
「親分、大抵はわかりましたが、船頭仲間で訊《き》いてみましたら、あの清次という野郎は今年二十一か二で、これまで別に悪い噂もなかったと云います」
「なんにも道楽はねえか」
「商売が商売だから、酒も少しは飲む、小|博奕《ばくち》ぐらいは打つようだが、別に鼻をつままれるような忌《いや》なこともしねえそうですよ。品川の女に馴染《なじみ》があるそうだが、これも若い者のことでしようがありますめえ」
「身にひきくらべて贔屓《ひいき》をするな」と、半七は笑った。「だが、まあ、いいや。そこまで判れば大抵の見当は付いた。御苦労ついでに品川へ行って、あいつが此の頃の遊びっぷりをしらべて来てくれ。店の名は判っているだろうな」
「わかっています。化《ばけ》伊勢のお辰という女です。すぐに行って来ましょう」
幸次郎は又出て行ったが、その晩、かれが引っ返して来ての報告は半七を少し失望させた。
「清次は月に四、五た
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